ことば

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手術は無事に終わった。
もうすでに、術後4日が過ぎた。

入院した日は学校の友人たちが陣中見舞いに来てくれた。
私は来る自分のためにグリーフケアを学びに行ったのだとつくづく思う。

Mさんには、術前説明まで立ち会ってもらった。
Mさん自身もサバイバーであるし、
今もがん患者のサポートを仕事としてもボランティアとしても行っている。
実に心強い同席者となってくれた。

説明は、手術に至るまでの病状の変化、そしてどのような手術が行われるか
そして、術中、術後に懸念されることなどについて。
あんまりないことではあるけれど万が一と説明されることには不安を煽られるばかりだ。
心臓の鼓動が少しはやくなった。
友人たちが帰った後、なんだかよくわからない涙が出た。

夜、歯磨きの後に、斜め向かいのベッドの人が声をかけてくれて少し話した。
隣のベッドの人も加わって、立ち話。
明日手術ですというと、「なるようになるだけよ」と言ってくださった。
経験者のことばは大きい。
不安が消えて、落ち着きを取り戻せた。

8時15分には手術室に向かう。
案内してくれた看護師さんが
「眠れましたか?」と聞く。
「よく寝ました」と答えると、ちょっと上を向いて
思い出したように「そういえば、よく寝てらっしゃいました」と少し笑った。
多分、私はぐーすかいびきをかいて寝ていたんだろう。
気持ちは実に安定、冷静だった。
自分でも少々驚くぐらいに。

手術室と書かれた扉向こうでは、手術部屋の多さ、スタッフの多さに目を見張った。
外来や通常の病棟とはまるで違った裏舞台。
看護師さんたちは手慣れた様子で私を手術台へと誘ってくれた。
執刀してくださったK先生は「あなたにとって善いようにします」と言ってくださった。
K先生の佇まいがしっかりと腰が据わった様だったので、私はすっかり安心した。
この先生だったら大丈夫だと思った。

手の甲に点滴麻酔の針、背中に硬膜外麻酔の針が通され
口元にマスクが置かれた。
「眠たくなってきますよ」と言われて
「どこまで意識があるんだろう」と思った次の瞬間には
私自身の意識はもう途切れており、
次にその意識が戻ったのは、名前を呼ばれて「手術、終わりましたよ」と
手術台の上で声をかけられた時だった。
ちゃんと意識戻った、よかったぁ…
あっという間だったなぁと思った。
「部屋へ戻ります」と言われて、また意識が途切れ、その次は相方が
「手術、大成功でした。腹膜播種も消えてたって先生が不思議そうだった」
と声をかけてくれた時。
それからずっとうつらうつらと眠り続けた。

麻酔がよく効いていて、まるで痛みは感じなかった。
それから二日間は、起きている時間の方が短いぐらい眠り続けた。
熱も39℃まであがったようだ。
全力でからだががんばってくれており、私自身の意識としては
「後は任せた、よろしく頼む」という以外になかった。