ことば

ふつうの日

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抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けたままだし
おなかに手術の傷跡がのこっているから
「私はがんだった」と思い出せるけれど
もはや治療で苦しかったということは
記憶の隅に追いやられており
すっかり、病気の前と変わらない時が過ぎてゆく。

大変だったといえば大変で
苦しかったといえば苦しかった。

思い出せば。

 

下手したら、がんはたいした病気じゃない
などと言いそうだ。
それぐらい、私の意識は調子がいい。

 

けれども、そうじゃないよ、そうじゃない。

時々思い出さなくては、と思う。

がんかもしれないと思った時のこと。
がんかもしれないと言われた時のこと。
がんだと言われた時のこと。

涙を流した時の気持ち。

どうして泣いたのかを。

 

日常が何気なくすぎてゆくことはいいことだ。

ふつうの日々。

 

たまに、生きていてよかったと大げさなくらい
あらためて

あらためて思える時間を。

 

 

 

 

抗がん剤治療のあいま、
時間だけはたくさんあったので
前々からやってみたかった
ピアスづくりを始めた。

 

ビーズの世界は果てがなく
店へ(浅草橋やばい)
仕入れに行くたび気がおかしくなる。

やばいものに手を出してしまった。