からだのふしぎ

味覚、嗅覚の変化

Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加

抗がん剤治療を受けた後のからだの変化は大きくあげると以下の点。
・吐き気
・食欲不振
・免疫力低下
・味覚、嗅覚の変化
・手指の皮剥け
・脱毛

吐き気/味覚・嗅覚の変化→食欲不振は一連の流れ。
ひとまず底だと思うところまで落ちて、それらの感覚が戻ってくるその経過がとてもおもしろい。

嗅覚の変化は病院側から特に伝えられていなかったが、
私には顕著だった。
アロマテラピーで使う精油、いつもならばどれもこれもいいにおいのはずが
全くいいにおいに感じられない。
またこの嗅覚のいやな感じは、舌でも受け取っている感覚がある。
くさいと感じるのではなくて、不味いという感じ。
精油は当然、直接飲んでも美味しいものではない。

こういう状況になる前にいいにおいだと感じている時、
例えばオレンジのフレッシュなかおりを嗅いでいる時は
むしろ果実感を帯びていた。
かおりとともに味覚もある感覚だった。

今は、においがむりやり味蕾に乗っかってくる感じ。
なので精油のそばにいると、きもちわるいまずさが助長されてしまう。

味蕾は、漢字そのままにつぼみのかたちをしている。
人間の舌には約1万近くの味蕾があるという。

食べ物の味は、舌にある味蕾と呼ばれる器官に、食べ物の味を構成している物質が
だ液に溶け込むことで届けられ、初めて感じることができる。
つまり味を感じるためには、食べ物が唾液と混じり、水溶液になることが必要。

舌の表面には、舌乳頭と呼ばれるざらざらした小さな突起が多数存在する。
味蕾は、この舌乳頭の部分に集まっている。

舌の表面は舌上皮細胞が折り重なり、上皮組織を形成している。
味蕾の部分ではこの上皮層がなく味孔とよばれる孔が空いた状態になっている。
この味孔の下に、複数の味細胞が集まって、一つの味蕾を形成。
それぞれの味細胞は味神経につながっていて、味細胞上端の微絨毛の部分に味物質が作用すると、
味神経を介して脳にシグナルが送られ、味が認識されるというしくみらしい。

抗がん剤は、亜鉛の吸収を阻害する。
亜鉛は味覚を感じるのに必須なミネラルである。
なので味蕾に異常が生じるそうだ。
また、抗がん剤は、さかんに増殖活動をしている細胞に影響を及ぼす。
新陳代謝の激しい味蕾細胞自体もダメージを受けるらしい。
ダブルパンチか。
抗がん剤の副作用によって唾液の分泌も阻害されるそうなので
トリプルパンチだ。

嗅覚と味覚の情報を処理する脳の場所はほぼ重なっているため、
味覚と嗅覚のどちらが変調をきたしても、食べ物の風味は異常をきたすようだ。
たとえば、交通事故に遭い脳が傷ついてしまうと味覚も嗅覚も変わってしまうそうだ。

抗がん剤治療の場合、細胞がダメージを受けているので
味やにおいを「気持ち悪い」と感じている脳としては正常な働きをしているということ。
脳が傷をうけても、間を伝達する細胞が働きを損ねても、
感覚が全く変わってしまうということ。

味がわからないどころか、何を食べても不味いと感じてしまうことは
美味を知ってしまっている身からするとつらいことではある。
また、いいにおいだったはずのものが、嫌なにおいに変わってしまうことは、せつない。

けれども、味やにおいを感じることひとつとっても、
こんなにも多くの支えをもって行われてることをあらためて知る機会だと思えば
ただつらいだけではなくなる。
抗がん剤治療の場合は、いつかはまた元に戻ることがわかっている。それもまたさいわい。

そのはたらきの精緻さにいちいち驚いている。
学校で教わった知識をあらためて実体験とともに紐解いている。