シガアル セイカツ

汲む

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汲む ―Y・Yに―

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇  柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……

わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

(茨木のり子)

 

 

今日は、「詩の会(仮)」の日。

茨木のり子さんの詩を声に出して読んでみた。

 

 

ここのところ、秋雨前線が私を通過中である。
泣いているのに、おもてにはあらわれない。

 

 

なんでもないとやりすごそうとしても
打ち消せない。
そんな自分を、弱っちいなぁとひとり笑ってもみる。

茨木さんの詩は、ひとりごちる私に
語りかけている。

 

 

ことばは、
時として凶器となり、深くえぐられ血が流れる。
痛い。
傷口は目には見えないけれど、痛い。

なかなかふさがらない。

けれども
流れる血をやさしく拭うのも
ことばなのだと、知っているから
求めている。
ことばを。

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